求人倍率が上がったのに応募が来ない――全国平均に怒る社長

ボブ「社長、応募がまだ来ていません」

ビル「おかしい! 求人倍率は上がったと聞いたぞ。世の中に仕事があるなら、誰かがうちに来るはずだ」

エビー「仕事が増えれば、応募する人が自動的に増えるの?」

ビル「数字は一・一九倍だろう。前月より上がった。つまり求職者も元気になっている」

ボブ「求人のほうが相対的に多い、という指標では?」

ビル「じゃあ求人を一・一九倍に増やせばいい」

エビー「募集を増やしたら応募が増える、という魔法の倍率じゃないわよ」

ビル

じゃあ求人を2倍に書けば、応募も2倍だな!

机には採用サイトの画面が開かれていた。募集要項には「アットホーム」「成長環境」「やる気重視」と並び、実際に担当する仕事の説明は驚くほど短い。ボブは画面を拡大し、読みながら困った顔をする。

ボブ「勤務地が書かれていない」

ビル「働く場所に縛られない会社を目指しているんだ」

エビー「実際は毎日出社しているじゃない」

ビル「自由な精神で出社してほしい」

ボブ「応募者が知りたいのは精神より通勤経路だろう」

十月三十日に公表された九月の雇用統計では、ハローワークの有効求人倍率は季節調整値で一・一九倍、前月より〇・〇一ポイント上昇した。新規求人倍率は二・一九倍で前月より〇・一三ポイント上がった。正社員有効求人倍率は一・〇一倍だった。数字はそれぞれ対象と計算の仕方が違う。全国の倍率一つで、地域も職種も条件も違う採用市場を表すことはできない。

求人倍率1.19倍の読み方

ビル「一・一九なら、一人の求職者に一・一九社が求愛している感じ?」

エビー「会社の数ではなく、求人と求職の数の関係よ」

ボブ「しかも条件が合わない求人を並べても、希望する人には届かない」

ボブ

倍率は全国の平均。うちの募集の話じゃないんだ

ビル「じゃあ『あなたを待っています』と書こう」

エビー「誰を待っているか分からない求人票が、いちばん困るの」

シルクワーク博士が通りかかり、三人の議論に加わった。

博士「ビル君。数字が間違っていると怒っているのかい」

ビル「全国では求人があるのに、うちには人が来ない。統計と現実が違いすぎるんです」

博士「統計は平均的な需給を示す。君の採用の成否を保証しないよ。九月の新規求人は、原数値で前年同月比〇・四%減っている。製造業は増えても、卸売・小売業や宿泊・飲食サービス業では減少した。業種の動きも同じではない。全国の一枚の数字から、自社の応募者の気持ちまで決めるのは無理がある」

ボブ「そもそも募集する人材像が曖昧です」

博士「まず『誰に、何を、どんな条件で頼む仕事か』を伝えよう。応募がない場合、見つけてもらえていないのか、見つけても仕事内容が分からないのか、条件が合わないのか、選考の進め方に負担があるのかを分けてみることだ」

応募が来ないとき、3つに分けて見る

ビル「でも、うちの魅力をいっぱい書けば選ばれるでしょう」

博士「魅力という言葉は、相手の基準で決まる。社長が『自由』と言っていても、勤務地や勤務時間がはっきりしなければ、生活の予定を立てられない人には不安になる。『成長できる』と書いても、どんな仕事を覚えられるのか、誰が支えるのかが分からなければ判断できない」

エビー「応募者が応募する前に判断できる材料を用意する」

博士「そう。情報を増やすのではなく、判断に必要な情報を欠かさないことが大事だね」

ボブ「面接も見直せそうです。応募者に一方的に質問するだけでは、相手が選ぶための材料を渡せない」

博士「採用は会社だけが人を選ぶ場ではない。相手にも生活と将来がある。相手の質問を怖がらずに聞けるかどうかで、信頼は変わるだろう」

ビルは腕組みした。

ビル「正直に言えば、応募がないと会社そのものが否定された気になるんです」

博士「そこが今日の核心だね。採用市場の難しさを、社長自身の価値への判定と結びつけないことだ。応募が来ないのは重要な経営上の情報だが、『自分に魅力がない』と決める証拠ではない。逆に、会社の説明が足りない可能性を自尊心の問題にしてしまうと、修正できなくなる」

エビー「失敗を人格の話にしない」

博士「その通り。数字が悪いとき、社長は世の中のせいにも自分のせいにもできる。しかし、どちらに決めても仕事内容が具体的になるわけではない」

ボブ「応募数だけでなく、募集画面が見られているか、条件を読んだ人が途中で離れていないかなど、把握できる範囲を見ます」

博士「よいね。ただし小さな件数で断定しないように。応募者が少ないときの比率は、たまたま一件の違いでも大きく変わる。数字は決断の材料であって、感情を処罰する判決文ではないんだ」

エビーは募集要項の修正を始めた。勤務地、業務内容、必要な経験、選考で確認することを具体的に書く。ボブは現場の担当者に、実際にどのような仕事で支援が必要かを聞くことにした。

ビル「じゃあ会社の雰囲気もそのまま載せよう。仕事で忙しいけど、困ったら声をかけやすいって」

エビー「それなら自分たちの実情に即しているわね」

博士「背伸びした宣伝より、確かめられる説明のほうが応募者に親切だ」

ボブ「面接の時にも条件を変えないようにしよう」

ビル「分かった。では募集タイトルは『世界で唯一、社長が応募者を待っている会社』で」

エビー「世界で唯一かどうか、調べられないでしょう」

ボブ「しかも社長のことしか書いていない」

ビル「じゃあ『社長は通常運転です』」

博士「それこそ募集内容と関係がないよ」

シルクワーク博士

募集票には、仕事の中身を書きましょう

応募の少なさを自分への評価と受け取ると、経営者は数字を攻撃したくなる。だが大切なのは平均への反論ではなく、目の前の応募者が判断できる情報を整えることだ。

ハローワークでは、求人・求職の申込みや雇用に関する相談ができます。

出典

厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年9月分)」(2026年10月30日公表)

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