出欠表が人事評価表になった夜
ビル「忘年会、全員出席! 今年こそ団結するぞ」
ボブ「まだ希望を聞いてないぞ」
エビー「その紙の『出席』の横に、ハートマークが付いているのは何?」
ビル「会社愛の見える化だよ。出席者は大きなハート、欠席者は小さなハート」
ボブ「出欠を人柄の査定にするな」
ビル「だって忘年会が楽しくない会社って悲しいじゃないか」
エビー「『楽しい』を強制した瞬間、もう楽しくないわ」

ハートの大きさで測らないで
会議室の壁には会場の写真が貼られ、その下に細かい座席表まで用意されていた。ビルの座る席を中心に、同心円状に席が並ぶ。エビーはスピリチュアル担当らしく「中心に集めたいエネルギーが強すぎる」とつぶやいた。
ビル「僕の近くに座った人ほど、社長と話せる特典がある」
ボブ「特典を本人に確認したのか」
ビル「当然喜ぶと思って」
エビー「その思い込みが今日の主役ね」
開催しない会社にも理由がある
東京商工リサーチが2026年11月5日に公表した忘・新年会に関する企業アンケートでは、開催予定の企業は56.5%、開催しない企業は43.4%とされた。この数字は会を開くことの効果を示す実験結果ではなく、企業の開催意向を集計したものだ。

ビル「五六・五%は開催する。ほら、過半数が僕を応援している」
ボブ「社長個人への応援率じゃない」
エビー「開催する会社があることと、すべての社員が行きたいことは違うわ」
ビル「じゃあ開催しない会社は人間関係が冷たい?」
ボブ「その結論も統計からは出ない。勤務形態も費用も事情が違う」
エビー「飲み会以外の形で感謝を伝える会社もあるでしょう」
ビル「つまり僕の豪華な座席表は……」
ボブ「まだ誰も頼んでいない」
ボブ、欠席理由を聞かない診察
医者のボブは、社員に出欠を尋ねるフォーム案を作った。必須項目は出席・欠席の選択だけだった。
ビル「欠席の理由を知りたい。どうして来ないのか、診断したい」
ボブ「病気を診るときだって、必要な情報だけを適切に扱う。勤務外の集まりに参加しない理由を全部明かしてもらう必要はない」
エビー「家庭の事情、体調、別の予定、単に集まりが苦手。事情は人それぞれ。理由を聞かれたくない人もいるわ」
ビル「僕はさみしいんだよ」
エビー「それはビルの気持ち。社員が解消する義務はない」
ビル「僕が会社を好きな分だけ、皆も会社を好きでいてほしい」
ボブ「好きという感情の証明に、金曜の夜を差し出させるな」
エビーは座席表の裏に、別の案を描いた。昼間の短い交流、仕事の中で感謝を伝える時間、参加しない人にも届く社長からのメッセージ。ビルは初めて、忘年会以外にも選択肢があることに気づいた。
シルクワーク博士、空席を褒める
博士が会議室に入ると、ビルが空席の名前を付け替えていた。
博士「何をしているのかね」
ビル「欠席者の席に『気持ちは出席』と書いておこうかと」
博士「本人に確認したのかな」
ビル「気持ちまで欠席だと悲しいので」
博士「君は今、会社の親睦を良くしようとしている。だが、その基準が『社長に会いに来るかどうか』になっている。それでは社員の側にある事情が見えなくなる」
ボブ「任意参加でも欠席で評価が下がるなら、本当の任意じゃないですね」
博士「そうだ。参加しない人が仕事で不利益を受けないことが重要だ。社長が口では自由と言いながら、後で理由を詰問したら、自由とは受け取られにくい」

断れる余白があってこそ、参加の笑顔が本物になります
エビー「みんなが安心して断れる余白がないと、参加した人の笑顔も本心か分からない」
博士「親睦は、その日の集合写真より普段の会話の中で育つものでもある。意見を言いやすいか、困ったとき助けを求められるか、感謝を伝え合えるか。そういう日常の状態を考えよう」

ビル「でも年に一度くらい、社長として大きく祝いたいです」
博士「それは良い願いだよ。祝うこと自体を否定しない。ただ、開催費用、準備の負担、参加しやすい時間、飲酒しない人への配慮を検討し、会を開く目的を共有したい。楽しむ人と、参加しないことを選ぶ人を、同じように尊重するのだ」
ボブ「『何のために開くか』を最初に決める」
博士「そう。社長が寂しいから全員集合、では目的がすり替わる」
ビル「博士は僕の寂しさに気づいていたんですね」
博士「席を同心円に並べていれば、誰でも気づくよ」
エビーが見つけた小さな告白
会議の後、ビルは片付けられない飾りを眺めていた。
ビル「最近、社員とゆっくり話せていない。仕事の指示ばかりで、何を考えているか分からない。忘年会で一晩笑ってもらえたら、僕が嫌われていないと確かめられる気がした」
エビー「自分が受け入れられているか知りたかったのね。でも笑顔を確認するために呼ぶと、相手は笑う仕事まで増えてしまう」
ビル「社長が不安を感じると、社員に証明を求めたくなるんだ」
ボブ「普段の会話を増やす方がいい。必要なら仕事上の相談の場を作れば」
博士「相手が参加するかどうかとは別に、感謝を言葉にできる。何を助けてもらったのか具体的に伝えれば、儀式がなくても届くことがある」
ビル「感謝をもらうより、伝える側になる」
エビー「それが忘年会の話で出た一番大切な発見かもね」
テーブルの真ん中に残った社長
翌日、ビルは出欠表のハートマークを消した。
ボブ「よし。これなら選べる」
エビー「会場にも希望を聞いてから予約しよう」
博士「出席した人だけを仲間とみなさないようにね」
ビル「分かった。僕は欠席の人に会いに行ったりしない」
ボブ「それでいい」
ビル「ただ、僕の等身大パネルを各自の自宅へ送ろう」
エビー「それはもっと逃げ場がないわ!」
博士「会社からの感謝は、荷物の大きさで測らないことだよ」

感謝は、等身大パネルではなく言葉で
忘年会を開くかどうかに唯一の正解はない。社長が欲しい安心と、社員が望む自由を混同せず、参加しない選択を尊重することが重要だ。親睦は出席数を集めれば完成するものではない。日々の仕事で信頼を積み重ねたうえで、集まりを一つの選択肢にすればよい。
働く人の心の不調や相談先については、厚生労働省の「こころの耳」に情報がまとめられています。
出典
東京商工リサーチ「忘・新年会に関するアンケート」(2026年11月5日公表)
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