忘年会を開かないと社員が冷たい?――社長の寂しさと組織の親睦

ビル「今年は豪華な忘年会をやろう! 全員参加で、心を一つにするんだ」

ボブ「『全員参加』って、もう決定なのか?」

エビー「日時も場所も聞いてないけど」

ビル「会社の仲間と年末を祝いたいと思わないか」

ボブ「祝いたい人もいれば、予定がある人もいるだろう」

ビル「じゃあ『全員自由参加』にする」

エビー「その言葉なら自由に聞こえるけれど、社長が欠席者を数えるなら話が変わる」

ビル「数えない。名前を覚えるだけだ」

ボブ「それが一番怖い」

ビル

欠席者の名前を覚えるだけだから、安心して

十一月の初め、世の中では忘年会を開くかどうかという話が増えていた。ビルは「飲み会がない会社は人間関係が薄い」という仮説を、社員の顔を見る前に立てていた。会場候補の資料には、立派な料理の写真が並ぶ。そこに社員の希望を尋ねた記録は見当たらない。

エビー「何のために開くの?」

ビル「親睦だ」

ボブ「親睦が深まったか、どう確かめる?」

ビル「会の最後に全員で握手する」

エビー「握手の回数で測るのはやめて」

実際の調査では、二〇二六年末の忘年会または翌年初の新年会を実施する企業は五六・五%だった。調査は十月一日から八日に行われ、五千五十二社の回答を集計している。実施しない企業は四三・四%で、前年から〇・七ポイント増えた。以前は開いていたが今回は開かない企業に理由を尋ねると、「開催ニーズが高くないため」が六三・七%、「参加に抵抗感を示す従業員が増えたため」が三九・六%だった。どちらも特定の回答対象者に対する割合であり、全企業にその理由が同じ割合で当てはまるわけではない。

忘年会56.5%の読み方

ビル「半分近くはやらないのか。社員が冷たくなったのかな」

ボブ「『開催しない』から『冷たい』への飛躍が早い」

エビー「職場以外の時間を大切にする人もいるし、お酒の場が苦手な人もいる」

ビル「でも俺は、皆と話したい」

エビー「それは社長の希望。社員全員の希望とは限らないわ」

そこにシルクワーク博士が現れた。

博士「ビル君。君は忘年会を使って何を伝えたい?」

ビル「一年の感謝です。社員とちゃんと話したいし、仕事の苦労をねぎらいたい」

博士「それは大切な気持ちだ。だが『感謝を伝えたい』と『年末の夜に全員集まってもらう』は別のことだよ。目的と方法を混ぜると、相手にとって負担になることがある」

ボブ「会社の行事は参加したくないと言いづらいですからね」

博士「社長自身が『任意だ』と言っても、部下が本当に自由だと感じるかは別だ。会に参加しない人を後で話題にしたり、評価に結びつけたりすれば、言葉と実態が食い違う」

エビー「参加の意思を聞く方法も考えた方がよさそう」

博士「そうだね。希望を聞くときに、欠席理由まで説明させる必要があるかも考えよう」

ビル「でも調査では、親睦のために開く会社が多いんでしょう?」

博士「以前から忘・新年会を開き、今回も実施すると答えた企業では、『従業員の親睦』を目的とする回答が八四・六%だった。ただし、目的が親睦だからといって、実際に親睦が深まると証明されたわけではない。この違いが重要だよ」

ボブ「開催目的と開催効果は別ですね」

博士「うん。会社には会を開く理由があり、社員には参加を選ぶ事情がある。どちらも無視しないことだ。親睦を大切にするなら、日々の仕事の中で相談しやすいか、感謝が伝わっているか、職場で孤立している人がいないかも考えてほしい。年末の一夜で全部解決しようとすると、会が重くなる」

シルクワーク博士

目的が親睦でも、深まるかどうかは別の話です

ビル「つまり忘年会はやめた方がいい?」

博士「そこまで結論を急がない。希望者で開催してもよいし、短い時間にしてもよい。仕事の都合や家庭の事情にも配慮し、別の形で感謝を伝えることもできる。会を開くか開かないかではなく、参加する人もしない人も尊重されるかどうかが大事だ」

開く前に決める、3つの配慮

エビー「開催費用も確認したい。食事代だけじゃなく、準備の負担もある」

博士「その通り。実施しない理由として費用を挙げる企業もある。だが、費用が安ければ全員が喜ぶとも限らない。時間を使うこと自体が負担になる場合もあるからね」

ボブ「来られない人には、翌日の仕事で不利にならないようにしたいです」

博士「それが自然な配慮だろう」

博士は静かにビルへ尋ねた。

博士「なぜ全員に来てほしかったのかな」

ビル「社長として、みんなと距離ができるのが怖いんです。ふだん仕事の話しかしていないから。せめて忘年会では、皆が笑ってくれると安心できる気がして」

博士「なるほど。けれど、社長が安心するための行事になってしまうと、社員は笑顔を求められる。部下の笑顔を確認することと、部下が安心して働けることは違うよ」

ビル「自分の寂しさを、全員の親睦に置き換えていたのか」

エビー「ちょっとだけ、そう見える」

博士「気づいたなら、感謝は別の形でも届けられる。仕事で助けられたことを具体的に伝える、普段の相談を増やす。そういう積み重ねを、年末の会と切り離して考えてみよう」

数日後、ビルは社員に開催希望を尋ねる案を作った。参加しなくても不利益はないことを明記し、都合の合わない人には別の形で感謝を伝えると決めた。

ボブ「前よりずっとよくなった」

エビー「ただ、一行気になる」

ビル「どこ?」

エビー「『欠席しても社長は泣きません』」

ビル「事実だ」

ボブ「本当に?」

ビル「少ししか泣かない」

博士「それは社員に気を遣わせるから、削ろうか」

ビル「じゃあ『社長の涙は自己負担です』」

エビー「そこは予算化しなくていいわ」

エビー

社長の涙は、経費にできません

社長が大切にしたい関係と、社員が望む距離感は必ずしも同じではない。親睦を強制でつくろうとせず、参加できる人もできない人も尊重する。その方が、仕事の中での信頼につながる可能性がある。

働く人の心の不調や相談先については、厚生労働省の「こころの耳」に情報がまとめられています。

出典

東京商工リサーチ「忘・新年会に関するアンケート」(2026年11月5日公表)

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