依存心とは|右腕に全部聞く社長

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社長の質問は一日中止まらない

ダイナーの角で、ビルが電話を握りしめていた。

ビル:「右腕に聞かないと何も決められない。朝のネクタイは青か赤か、昼食は何にするか、顧客への返事は何時か、全部聞いている」

ビル

右腕に聞かないと、何も決められません

ボブ:「その右腕は今、仕事をしているのか?」

ビル:「僕からの質問に答えるという大仕事を」

エビー:「右腕の人が休む日はどうするの?」

ビル:「店を閉める!」

ボブ:「君の店の鍵を持っているのは右腕じゃないだろ」

元証券マンのビルは自分で即断してきたはずだった。しかし大きな案件の失敗を経験してから、誰かに先に答えを言ってもらわないと落ち着かない。

依存心は悪い性格の名前ではない

依存心とは、安心や判断を他者へ強く求める気持ちを指す日常語だ。誰かに頼ること自体は悪いわけではなく、専門家に相談し仕事を分担するのは必要な行動でもある。問題になるのは、自分で確認できることまで相手の同意がなければ動けず、その人がいないと事業が止まってしまう状態だ。

頼ることと、判断を手放すこと

ボブ:「医者にも専門外の相談は必要だよ。でも、自分の受け持つ仕事を全部他人へ委ねるのとは別だ」

エビー:「頼りたい気持ちには『失敗したら責められたくない』という怖さが隠れているかもしれないね」

ビル:「判断が間違っても、右腕が決めたと言えば……」

ボブ:「それが一番いけない。責任まで人に預けるつもりか?」

ボブ

責任まで、人に預けるつもりか

英国NHSは低い自己評価がある場合、他者の要求に断れず、過重な負担を抱くことがあると説明している。これは依存心の診断基準ではないが、相手の評価を気にして自分の行動が狭くなる場面を考える手がかりだ。

右腕が休暇を取る日

右腕の担当者が休暇を申し出た。ビルは慌てて「社長室へ毎時連絡」と予定表に書こうとした。

エビー:「休む日まで社長の答え係にするのは違うわ」

ビル:「不在中に僕が間違えたらどうする」

ボブ:「まず何を決めるのか分けよう。契約内容の確認なら資料と担当者の記録があるはずだ」

英国NHSはストレスが強いと、決定が難しくなったり、圧倒される感覚や不安を覚えたりすることがあると紹介している。ビルが右腕へ質問を重ねるのは、判断を避けることで一時的に気持ちを落ち着かせている可能性がある。しかしビルの内面について原因を一つに断定することはできない。

ビル:「そういえば、右腕へ電話するたび少し安心する。でも次の問題が来たらまた電話する」

エビー:「答えをもらっても、判断できる自分への信頼は増えていなかったのね」

ボブ:「資料を見て、どこまで自分で決められるか練習しよう」

自分で決める練習を始める

最初は小さな仕事からだ。ビルは会議の日程を、参加者の予定と締切を見て決めた。そのうえで担当者へ事実の確認を依頼した。

ビル:「『決めてください』ではなく『この条件で進めます。問題があれば教えて』と言えた」

エビー:「右腕の人にも自分の仕事をする時間が戻るわ」

ボブ:「次は見積書だ。金額を出した根拠は社長も把握しよう」

ビル:「やっぱり一度聞いてから……」

ボブ:「確認することは構わない。ただ、何を聞くかを具体的にして」

任せるべきことと社長が引き受ける判断を区別しなければ、仕事は人間関係に張り付く。誰かに相談するたび「社長としてどうしたいか」がなくなっていないかがポイントだ。

博士の答えは『一人で頑張れ』ではなかった

シルクワーク博士はビルのスマートフォンを机へ置かせた。

博士:「誰にも頼らない人が自立しているわけではない。相談を使って、自分が判断するための材料を増やせる人を目指そう」

ビル:「決定の前に右腕へ相談するのは駄目ですか」

博士:「何を確かめたいかが明確なら、むしろよい。専門知識を聞く、リスクを確認する、代替案を出してもらう。しかし『責任を全部引き取って』という依頼とは区別するのだ」

相談の言葉を変える

ボブ:「右腕がいない時も重要な契約が扱えるよう、情報を共有する仕組みが要る」

博士:「そうだね。決裁権限、代理の連絡先、判断材料の保存場所を明確にする。誰かの善意に会社の運営を依存させないことだ」

エビー:「個人の心と組織の仕組みを、どちらも整えるのね」

博士:「強い不安が続き、日常の生活や仕事に支障があるなら相談先を持ってよい。米国NIMHも、持続する心身の不調には専門家の助けを求めるよう示している。ただし誰かに相談することと、判断を手放すことは同じではない」

感謝の言い方を変える

ビルは右腕の担当者へ「助けてもらってありがとう」と伝えた。続けて「これからは資料と判断基準を整理する」と話した。

エビー:「『僕を一生支えて』ではなく『仕事の仕組みを良くする』になったわ」

ビル:「担当者が自分の仕事へ戻れるのは嬉しい。だけど少し寂しい」

ボブ:「その寂しさを理由に、仕事を増やさないように」

ビル:「相談相手がいなくなるようで怖い」

博士:「人を大切にするなら、相手が自分の仕事を進められる自由も大切にしよう」

シルクワーク博士

人を大切にするなら、相手の自由も大切に

相談の言葉を変える実験

ビルは右腕へ送る予定だったメールを、三人で読み直した。そこには「どうしたらいい?」「全部任せる」とだけ書かれていた。

ボブ:「相手が何を答えればいいか分からないだろう」

ビル:「つまり質問の仕方も考える必要があるのか」

エビー:「例えば『この取引のリスクを二つ教えてほしい』なら、相手も情報を集めやすいわ」

ビルは自分で作った判断案を添え、取引先への説明方法について意見を求めた。すぐに答えが来なくても、調べるべきことが明確になっていた。

博士:「相談するときは、何が分かっていて何が未確認かを伝えよう。相手の判断をもらう前に、君がどの責任を持つかを示すことも大切だよ」

ビル:「右腕の意見と僕の結論が違ったら?」

博士:「理由を確かめたうえで決めればよい。違いがあることを、信頼関係の破綻と考えなくていい」

エビー:「誰かに頼ることをやめる話ではなく、相手を尊重して頼り方を変える話だったのね」

ビルは、相談相手に謝るより先に、繰り返していた同じ確認を一覧にまとめた。次から自分で調べられる部分を増やせば、相手にも必要な相談だけが届く。

右腕の右腕

翌朝、ビルが新しい組織図を作った。

ビル:「右腕に頼りすぎるのはやめた。今日から左腕に相談する!」

ボブ:「呼び名を変えただけだろ」

エビー:「今度は人を腕の数で数えないで」

博士:「会社の判断は人体模型ではないよ」

ビル:「では相談担当は『両ひざ』に……」

ボブ:「もう歩けなくなるぞ!」

語録「依存心」 https://kyou-ichinichi.com/glossary-017/ では言葉の意味を別の角度から整理している。人に頼る力と、自分で決める責任は両立する。右腕への感謝を示すなら、何でも聞く回数を増やすより、必要な時に適切に相談できる仕事の仕組みを作ることだ。

関連する紹介コラム:「今度こそやめる」を占いで決めようとしたビルもあわせてどうぞ。

出典

英国NHS「Raising low self-esteem」

英国NHS「Stress」

米国NIMH「My Mental Health: Do I Need Help?」

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