結論:メンターという肩書きは、必須ではない
「経営者にはメンターが必要だ」という言葉を、耳にしたことがあると思います。たしかにメンターがいることの利点は大きい。けれども筆者の考えははっきりしています。必要なのは「メンター」という肩書きの人物ではなく、「判断の過程を外に出せる相手」です。その相手がたまたま先輩経営者ならメンターと呼ばれますが、形はメンターでなくても構いません。
逆に言えば、メンターという名前の相手がいても、本音の数字を見せられず、当たり障りのない話しかできないなら、その関係は機能していません。問うべきは「メンターがいるか」ではなく、「迷いを言葉にできる相手がいるか」です。
この記事の要点
経営者に必要なのは「メンター」という肩書きではなく、判断の過程を外に出せる相談相手です。メンターの役割は、(1)経験の先行情報を得ること、(2)視点を外付けすること、(3)感情の置き場を持つこと、の3つに分解できます。そしてこの3つは、経営者コミュニティ、専門家、公的相談窓口、カウンセリングなどの組み合わせでも代替可能です。
メンターが担うのは、実は3つの役割

メンターの働きを分解すると、だいたい次の3つに分かれます。
1. 経験の先行情報
自分がこれから直面する局面を、すでに経験した人から聞けること。拡大期の組織の崩れ方、資金繰りの山場、共同創業者との関係。経験談は一般論の本よりも、自分の判断材料として効きます。ただし、時代も業種も違えば、そのまま使えるとは限りません。答えではなく、考える材料として受け取るのが正しい使い方です。
2. 視点の外付け
経営者は、自分の会社の情報にいちばん詳しい一方で、いちばん偏った見方をしている人でもあります。社内の誰もが気を遣う立場の話を、利害のない外部の目で見てもらう。「その前提、おかしくないですか」と言える相手の存在は、判断の盲点を減らします。
3. 感情の置き場
そして意外に大きいのがこれです。数字の相談ではなく、「しんどい」と言える場所。経営者の不安や迷いは、社員にも家族にも、そのままでは出しにくいものです。吐き出す場所があるかどうかは、経営の継続力に直接関わります。相談相手の設計という考え方は、第1弾の記事「経営者の孤独は性格の問題ではない。相談相手の設計の話」でも紹介しましたが、メンターはその設計の中の1ピースにすぎません。
「持たない」という選択が成立する条件
では、メンターがいない経営者は不利なのか。そうとは言い切れません。上の3つの役割を、別の形でまかなえているなら、メンターという形にこだわる必要はないからです。
- 経験の先行情報 → 先輩経営者との勉強会、経営者コミュニティ、読書や事例研究
- 視点の外付け → 税理士・社労士などの専門家、社外の取締役や顧問、異業種の経営者仲間
- 感情の置き場 → 家族や友人、そしてカウンセリングのような守られた相談の場
中小企業庁が各都道府県に置く「よろず支援拠点」のような公的な相談窓口も、経営相談の受け皿として用意されています。大事なのは、役割ごとに置き場が確保されているかどうかです。どれか1つでも完全に欠けていると、判断は少しずつ内向きに閉じていきます。
メンターと混同しやすい相手との違い

相談相手の形には、それぞれ得意分野があります。メンターは「経験に基づく助言と伴走」、コーチングは「問いかけによる目標達成の支援」、カウンセリングは「心の困りごとの整理」、コンサルタントは「専門知による課題解決の請負」です。どれが上という話ではありません。
目的を取り違えると、相談は空回りします。心が疲弊しているのに経営の正解を求めても苦しくなるだけですし、事業の数字の相談をカウンセリングに持ち込んでも前に進みません。使い分けの考え方は、第1弾の記事「メンタルコーチとカウンセラーと精神科医の違い。誰に何を相談するか」でも紹介しましたが、まず「今の自分に必要なのは、助言か、整理か、回復か」を分けることが先です。
良い相談関係と、危ない相談関係の見分け方
相談相手は、選び方を間違えると逆効果にもなります。良い相談関係には共通点があります。相手が自分の答えを押しつけず、相談者の判断を最後は本人に返してくれること。話した内容が外に漏れないこと。そして、相談するたびに「自分で考えられる範囲」が少しずつ広がっていくことです。
逆に注意したいのは、相談が相手への依存に変わっていく関係です。判断のたびに相手の許可が要るようになる、相手の成功体験と違う道を選ぶと否定される、関係を続けること自体が高額な負担になっていく。こうした兆候があるなら、その関係は「支援」ではなく「囲い込み」に近づいています。相談相手は、経営者を強くするための存在であって、経営者の判断を預かる存在ではありません。この線引きは、メンターでも、専門家でも、同じです。
メンターを探すなら、イベントより「小さな相談」から
メンターは、探して登録するものではありません。関係は、小さな相談の積み重ねから育ちます。いきなり「メンターになってください」と頼むのは、相手にも重い。まずは具体的な相談を1つ持ちかけてみる。相手の話が自分の判断にどう響いたかを、結果と一緒に報告する。その往復が続いた関係が、結果としてメンターと呼ばれる形になります。
相手選びで見るべきは、肩書きの大きさよりも、「自分の失敗も話してくれるか」「自分のやり方を押しつけてこないか」の2点です。この2つを満たす相手は、規模の大小を問わず、経営者にとって財産になります。
出典
- 中小企業庁「よろず支援拠点」:国が各都道府県に設置する、経営全般の無料相談窓口について
まとめ
メンターは必要か。答えは、メンターという形は必須ではないが、「相談できる相手」は必須だ、です。経営の判断は、頭の中だけで回し続けるほど質が下がっていきます。経験を聞ける相手、視点を外から入れられる相手、本音を置ける相手。その3つを誰か1人で担う必要はありません。分散しても、確保しておくこと。それが長く経営を続ける人の、静かな共通点です。
相談相手の持ち方や、心の困りごとの整理について考えたいときは、「今日一日」の相談窓口でも受け付けています。相談は soudan@kyou-ichinichi.com 宛のメールでもお送りいただけます。


コメントを残す