経営者ほど、酒の管理が経営管理になる
経営者の飲酒は、個人の嗜好の問題では済みません。酒の席は仕事の一部であり、飲む量も頻度も、自分一人の意思では決めにくい。それでいて、翌日の判断の質に直結するのが飲酒です。資金繰りの最終確認も、採用の決定も、取引先との難しい交渉も、すべて「飲んだ翌日の頭」で行われます。
関連記事として、アルコールとの距離を見直す。経営者の飲酒記録という方法と、ギャンブルや買い物への依存が、仕事を壊す前にもあわせてご覧ください。
つまり経営者にとって飲酒管理とは、体調管理であると同時に、判断力を守るための経営管理そのものです。ここでは、判断と睡眠という2つの軸から、酒との付き合い方を仕組みで整理します。
この記事の要点
経営者にとっての飲酒管理は、嗜好の節制ではなく、判断力の管理です。アルコールは抑制や見通しを担う脳の働きから緩め、寝酒は睡眠の質を下げて翌日の回復を目減りさせます。量は感覚ではなく純アルコール量(グラム)で数え、重要な決定は飲酒の席では行わず、翌日の素面の自分に委ねる。これが、経営者の酒との付き合い方の骨格です。
アルコールは、判断の「ブレーキ」から先に緩める
アルコールが体に入ると、脳の働きの中でも、抑制や見通しを担う部分から影響を受けやすいとされています。普段なら一晩考える契約条件にその場で頷いてしまう、言わなくていい一言が口をつく、リスクの見積もりが甘くなる。飲酒の席で起きがちなこの種の「緩み」は、意志の弱さではなく、アルコールの作用として起きるものです。
怖いのは、本人が「まだ大丈夫だ」と感じている点です。酔いの自覚は、実際の判断力の低下より遅れてやってきます。だからこそ、席の上での重要な決定——価格、納期、採用、契約——は、原則として「その場で決めない」。これを個人の心得ではなく、会社のルールにしておく価値があります。決めるのは翌日、素面の自分です。
寝酒は、睡眠を「浅く」する
「寝つきを良くするために一杯」という人は少なくありません。たしかにアルコールには入眠を早める面があります。しかし厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、晩酌での深酒や、眠るために酒を飲む「寝酒」が睡眠の質を悪化させる可能性を明確に示しています。眠りの後半が浅くなり、途中で目覚めやすくなる。結果として、時間だけは寝たのに疲れが取れていない朝が増えます。
経営者にとって睡眠は、翌日の判断力を買う投資です。その投資を、寝る直前の一杯で目減りさせているとしたら、これはもう嗜好の問題ではなく損失の問題です。回復の質という観点は、第1弾の記事「燃え尽きの前兆は、やる気ではなく『回復の質』に出る」でも紹介しましたが、飲酒はその「回復の質」を下げる代表的な要因の1つです。
まず、量を「見える化」する

付き合い方を変える第一歩は、感覚ではなく数字で把握することです。厚生労働省の飲酒ガイドラインは、酒の量を「純アルコール量(グラム)」で捉えることを勧めています。計算式は「摂取量(ml)×アルコール濃度(度数÷100)×0.8」です。
目安として、純アルコール20gは、ビール500ml、日本酒1合(約22g)、ウイスキーのダブル1杯に相当します。そして同ガイドラインや「健康日本21(第三次)」では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、1日平均で男性40g以上・女性20g以上が示されています。ビール500ml缶を毎日2本飲めば、それだけで男性のリスク水準に届く計算です。
「自分は大した量ではない」という感覚と、グラム換算の実数は、往々にしてずれています。そのずれに気づくこと自体が、付き合い方を見直す出発点になります。
会食を断れない経営者のための、設計の工夫

「付き合いだから飲まないわけにはいかない」。これは事実として、その通りです。だからこそ、意志の力ではなく設計で対処します。
- 量の上限を「席の前」に決める。純アルコール量で自分の上限を持ち、杯数ではなくグラムで数える
- 最初の一杯だけ酒にし、後はノンアルコールに切り替える。今はノンアルコール飲料の選択肢も豊富で、席の流れはほとんど変わらない
- 週に飲まない日を先にカレンダーへ入れる。予定として確保しない休肝日は、会食の予定に負ける
- 重要な判断は飲酒の翌朝まで持ち越す。夜のメールで結論を出さない
どれも根性の話ではありません。仕組みにしてしまえば、席の雰囲気を壊さずに量を落とせます。
飲酒のコストは、「翌日の自分」が払っている
飲酒の支払いは、飲食代で終わりません。本当の請求書は翌日に届きます。冴えない頭での会議、短くなる忍耐、甘くなる見積もり。そして経営者の場合、その劣化した判断を受けるのは自分だけではなく、社員と取引先です。部下のミスに普段より強く当たってしまう朝、数字の確認を一段落く済ませてしまう午後。それらは性格の問題ではなく、前夜の飲酒の「翌日コスト」として説明できる部分が少なくありません。
だから、量を数える習慣にはもう1つの意味があります。飲んだ量と、翌日の自分の状態を並べて記録してみることです。何杯を超えた翌日に判断が鈍るのか。自分の「翌日コストの分岐点」が見えてくれば、上限は一般論ではなく、自分のデータで決められるようになります。
「やめられない」感覚があるなら、それは点検の合図
一方で、量を決めても守れない、飲まない日を作ると落ち着かない、朝から飲酒のことが頭を離れない。そういう感覚がある場合は、付き合い方の工夫で扱える段階を超えている可能性があります。飲酒の問題は、本人の自覚よりも周囲の変化として先に現れることが多い領域です(気になる場合は医師へ相談して)。
相談先は、かかりつけ医のほか、保健所や精神保健福祉センターなど、公的な窓口も用意されています。経営者であることと、飲酒について相談することは、何も矛盾しません。むしろ判断力を守るための、経営者らしい点検の1つです。
出典
- 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」:純アルコール量の計算式(摂取量ml×度数÷100×0.8)と、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の目安(「健康日本21(第三次)」では1日平均で男性40g以上・女性20g以上)
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」:晩酌での深酒や寝酒が睡眠の質を悪化させる可能性について
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まとめ
経営者の飲酒は、判断のブレーキを緩め、睡眠による回復を浅くします。この2つは、どちらも会社の意思決定の質そのものです。量をグラムで把握し、決めるのは翌日の素面の自分にし、寝酒をやめる。酒を断つのではなく、判断力を守るために酒を管理する。それが、経営者にとっての酒との付き合い方の正解にいちばん近い形だと筆者は考えます。
飲酒に限らず、経営と心の付き合い方について整理したいときは、「今日一日」の相談窓口でも受け付けています。相談は soudan@kyou-ichinichi.com 宛のメールでもお送りいただけます。


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