経営者の飲酒は、「量が見えなくなる」構造にある
経営者の酒が増えるのは、意志が弱いからではありません。構造の問題です。接待と付き合いで飲む機会が日常に組み込まれている。断ることにコストがかかる。帰宅後も頭の中では仕事が続き、飲酒が「一日の終わりの合図」になっている。人付き合いと休息の両方が、同じ一杯に乗っているのです。
この構造の中では、「昨夜どれくらい飲んだか」は驚くほど曖昧になります。感覚は当てになりません。だからこそ、第一歩は反省でも節制でもなく、「量を数字で把握すること」です。方法は一つ、飲酒記録です。
この記事の要点
飲酒量は、杯数ではなく純アルコール量で把握します。純アルコール量(g)=飲んだ量(ml)×度数(%)÷100×0.8。ビール500ml(5%)は20gにあたります。厚生労働省が「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」の目安とするのは、1日あたりの平均で男性40g以上・女性20g以上。酒との距離の見直しは、まず2週間の飲酒記録から始まります。
まず、量を「純アルコール量」に直す

酒の量は、杯数や本数では比較できません。ビールと焼酎とワインでは、アルコールの濃さが違うからです。国が示す物差しは「純アルコール量(グラム)」で、計算式は次の通りです。
純アルコール量(g)=飲んだ量(ml)×度数(%)÷100×0.8
目安として、ビール500ml(5%)で20g、日本酒1合(180ml・15%)で約20gです。
厚生労働省は2024年に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表し、飲酒量が少ないほど健康リスクは低くなるという考え方を示しています。また「健康日本21」では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の目安として、1日あたりの平均純アルコール摂取量が「男性40g以上、女性20g以上」を挙げています。ビール500ml缶2本で、男性のそのラインに届く計算です。付き合いで飲む経営者の日常が、この数字とどれくらい離れているか。まず事実を並べることが出発点です。
飲酒記録のつけ方:書くのは5項目だけ

記録は続けなければ意味がありません。項目は最小限に絞ります。スマートフォンのメモやカレンダーアプリで十分です。
- 日付
- 何を、どれだけ飲んだか(純アルコール量に換算する)
- 場面(接待/付き合い/自宅/一人、など)
- 飲んだ理由(付き合い、眠るため、ストレス、なんとなく)
- 翌朝の状態(眠気、体調、仕事の立ち上がりの速さ)
期間はまず2週間です。2週間分の記録が並ぶと、感覚では決して見えなかったものが見えます。
記録から見えるのは「パターン」であって、反省材料ではない
記録の目的は、自分を罰することではありません。パターンを読み取ることです。
- 飲む量が増えるのは、特定の曜日か、特定の相手との席か
- 「眠るため」の飲酒は、週に何回あるか
- 翌朝の状態が悪い日と、前夜の量・場面にどんな関係があるか
量が跳ねる場面が特定できれば、対策は「飲まない努力」ではなく「その場面の設計」に変わります。二次会に行かない、最初の一杯だけ付き合って後はノンアルコールに切り替える、翌朝に重要な予定がある日は量を先に決める。意志の強さに依存しない対策は、パターンが見えて初めて作れます。逆に言えば、記録なしの節制は、地図なしの航海のようなものです。続かなくても無理はありません。
距離の取り方は、記録のあとに決める
記録を踏まえたうえで、距離の取り方を自分で決めます。一般に工夫として挙げられるのは、休肝日を先にカレンダーに入れること、一日の上限を純アルコール量で決めること、飲む前に食事を取ること、などです。どれが正解かは人によって違います。重要なのは、感覚ではなく、自分の2週間分の事実に基づいて選ぶことです。
付き合いの席で、量を抑えるための設計
記録でパターンが見えてきたら、次は「席」の設計です。接待や付き合いの場で使える工夫は、我慢ではなく段取りの問題として組み立てられます。
- 上限を先に決めて、口に出す:「今日は2杯まで」と最初に言ってしまうと、勧められ続ける流れを自分で断ち切れます
- 水と交互に飲む:アルコール一杯ごとに水を一杯挟むと、ペースそのものが落ちます
- 空腹で席に着かない:飲む前に何か食べておくことは、量が伸びる速度を抑える基本です
- 二次会の参加を、酔う前に決める:行くかどうかは席の空気ではなく、事前の予定で決めておく方がぶれません
- 帰宅後の一杯を置き換える:炭酸水やノンアルコールの飲み物に切り替える。「飲む行為」ではなく「一日の終わりの合図」の方を残す工夫です
どれも、相手への失礼にはなりません。むしろ「自分の上限を管理している人」という印象は、経営者同士の席では信頼の材料になるはずです。
一人で扱わない方がいいサイン
ただし、飲酒の問題には、記録や工夫の範囲を超える段階があります。減らそうと決めても減らせない。飲まないと眠れない、手が震えるなどの体の反応がある。仕事や家庭に支障が出始めている。こうした状態は、意志や工夫の問題ではなく、アルコール依存症を含む医療の対象である可能性があります。
その可能性があるなら、一人で抱え込む段階ではありません(気になる場合は医師へ相談して)。相談先として、各都道府県の精神保健福祉センターや保健所では、飲酒に関する相談を本人・家族から受け付けています。専門家に現状を話すことは、「依存症の宣告」を受けに行くことではありません。自分の状態を正しく知るための確認作業です。
まとめ
経営者の飲酒が増えるのは意志の問題ではなく、付き合いと休息が一杯に重なった構造の問題です。だから最初の一手は反省ではなく記録です。純アルコール量という共通の物差しで2週間記録すれば、量が増える場面と、翌朝への影響というパターンが見えます。対策はそのあと、場面の設計として作るのです。そして、減らせない・飲まないと眠れないといったサインがある場合は、工夫の段階を超えています(気になる場合は医師へ相談して)。酒との距離は、根性ではなく、事実と設計で決めるものです。
相談について
「今日一日」では、飲酒との付き合い方や、生活習慣の見直しに関する相談をメールでも受け付けています(soudan@kyou-ichinichi.com)。医療的な判断は行いませんが、記録のつけ方や、状態を整理して相談先を選ぶお手伝いはできます。「このままでいいのか」と感じた時点が、見直しの始めどきです。
出典・参考
- 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年)
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコール」


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