AIを入れたら社長まで不要?――効率化を怖がるビル

社長の椅子が二脚になった

ビル「今日から社長の仕事にもAIを導入する。僕の隣に新しい社長席を用意した」

エビー「どうして椅子が二つあるの?」

ビル「AI用の席だ。僕より仕事ができたら、そっちに座ってもらう」

ボブ「AIに座る体はないだろ」

ビル「では椅子だけに社長の資格があるのか」

エビー「経営権を家具に移す話は初めて聞いたわ」

エビー

経営権を家具に移す話?

元証券マンのビルが導入しようとしたのは、資料を整理するAIツールだった。ところが社内への説明は「人間の仕事を全部AIに任せる」という巨大な構想になっている。社員はどんな資料を入力してよいか分からず、誰が出力を確認するかも未定だ。

ボブ「まず、何の作業を減らしたいんだ?」

ビル「全部」

エビー「それだと社員が困る場所を見つけられないわ」

ビル「できるならすべて自動化したい。社長会議もね」

ボブ「社長会議で何を決めているか分かってる?」

ビル「そもそも僕が一番分かっているはずだ」

エビー「その『はず』を確かめましょう」

最初にAIへ任せた仕事

試しに、ボブは会議のメモを使い、議題と決定事項を分類する作業を提案した。エビーは使える情報と、入力を控えるべき情報を分ける相談を始めた。

ビル「何だ、そんな小さい仕事だけ?」

ボブ「小さな仕事で確かめれば、どこに間違いが出るか分かる」

ビル「AIはすごいと聞いていたのに」

エビー「すごい道具でも、使い方を決めなければ困るのよ」

ボブ「会議メモが間違っていれば、AIが整理しても間違いが残るかもしれない」

ビル「じゃあAIに会議も開いてもらおう」

エビー「あなたが会議に出ないことが目的になってない?」

ビルは社長席のもう一脚を見つめて、急に無口になった。新しい道具に興味がある一方、自分の仕事が不要になる未来も想像していたのだ。

ビル「AIが僕より正しい答えを出すなら、社員は僕に相談しなくなるんじゃないかな」

ボブ「業務を効率化することと、会社として責任を負うことは別だよ」

エビー「社長の価値を、資料整理の速度で測らなくていいのでは」

博士が椅子を一脚だけ動かした

シルクワーク博士はAI用の椅子を、人の通り道を塞がない場所へ移した。

博士「ビル君。AIが役に立つことと、君の存在価値が下がることは、なぜ同じ話になるのかな」

ビル「社長は何でも一番早く答える人だと思っていたからです」

博士「その役割の理解を見直そう。社長は目的を決め、責任を負い、働く人と顧客への影響を考える立場だ。道具の速さだけで置き換えられるものではない」

ボブ「誤った出力が出たときの確認者も必要ですね」

博士「そう。AI事業者ガイドラインのような資料は、利用の責任やリスクを整理するための手がかりになる。ただし導入すれば必ず利益が上がる、あるいは仕事がなくなるという保証ではない。会社ごとの用途とリスクを確かめよう」

AI導入で先に決めること

エビー「使う側の情報の扱いも気になるわ」

博士「入力してよい情報の範囲、確認の手順、誰が最終判断するかを決める。業務の仕組みと道具はセットだよ」

社長の価値は、速さではない

ビル「AIに任せたから、僕はもう確認しなくていいと思っていました」

博士「任せる部分があっても、責任まで消えるわけではない」

シルクワーク博士

責任まで、消えるわけではありません

社員から届いた意外な質問

社員が「AIを使ったら評価が下がるのか」と尋ねた。ビルは即答しようとして口を閉じた。

エビー「ビルも不安だけど、社員も自分の仕事がどう変わるか心配なのね」

ボブ「評価や研修の方針が分からないなら、先に説明しないと」

博士「技術だけ先に配れば、働く人は目的を知らないまま使うことになる。どんな仕事を助ける道具か、誰に相談できるか、誤りを見つけた場合どう報告するか。そういう日常の運用を決める必要がある」

ビル「会社に必要なのは、自動化する業務と残す判断を区別することか」

博士「そのとおり。怖がらず試してよい。しかし気持ちだけで全社展開したり、知識不足を隠したりしないことだ」

社長の本音

ビル「証券会社にいた頃、速く答えられた自分が誇りだった。今は何でもAIが先に整理してくれる。僕に何が残るのか、寂しくなるんです」

エビー「能力が変わることへの不安を、不要になる恐怖にまで大きくしていたのね」

ボブ「新しい技術を学ぶことは、自分を否定することじゃない」

博士「君が決めたいのは、誰を不要にするかではなく、どんな仕事をより良くするかだ。自分の価値を守るために導入を妨げる必要も、逆に誇示するために無理に使わせる必要もない」

ビル「椅子を置くより、社員に聞いた方が早かったですね」

もう一つの社長席

会議を終えたビルはAIの席を片付けた。翌日、ボブが同じ場所を見ると、小さな椅子が三脚増えている。

ボブ「何だこの椅子」

ビル「AIの部長と課長と主任の席だよ。組織図がないと不公平だろ」

エビー「誰も座れない組織の席だけ増やしてどうするの」

博士「道具を役職で飾る前に、実際に使う仕事を明確にしよう」

ビル「では社長の椅子だけ残す!」

ボブ「そこに戻るのか!」

ボブ

そこに戻るんですか

AI導入の成否は、どれだけ人間を減らせるかという競争ではない。業務上の目的を定め、情報の扱いと出力の確認を決め、社員が安全に使える仕組みを整えることが先だ。社長が自分の価値を守るために道具を恐れると、現場の困りごとが見えなくなる。

個人情報の取扱いのルールや相談先は、個人情報保護委員会が案内しています。働く人の心の不調や相談先については、厚生労働省の「こころの耳」に情報がまとめられています。

出典

経済産業省「AI事業者ガイドライン第1.2版」(2026年3月31日)

合わせて読みたい

読んで終わりじゃ、もったいない。この記事のテーマを、あなたの次の一歩へ

  • このテーマを仕事の現場で活かすなら、コミッターズ(COMITTERS)へ。集客・営業の実務コラムと、無料相談の入口があります
  • 心の整え方を、本でもっと深く。楽天ブックスで、このテーマの関連書籍が探せます
  • 一人で抱え込まず専門家に相談したいときは、お問い合わせからご連絡ください。次の一歩を、一緒に整理できます

PRがあります

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です