ADHDと起業|特性を事業の工程に組み込む

カテゴリ:

八種類の適性テストを並べる

ビルの机には「天才経営者」「革命家」「絶対に失敗しない起業家」と書いたカードが並んでいた。

ビル:「僕にはADHDっぽいところがある。ということは、起業家として天才に違いない!」

ボブ:「特徴だけで診断も適性も決めるな」

エビー:「今朝は八種類のテストを買ったんだって?」

ビル:「僕の才能を証明するためだよ」

ビル

才能の証明に、八種類買いました

ボブ:「その購入を承認する前に、会社の予算を見てほしかったな」

ここで笑われるのはビルの先走った行動だけであり、発達特性そのものではない。起業の成否を診断名で決めることもできない。

ADHDの特性と起業の相性は同じ問題ではない

ADHDは注意欠如・多動症と呼ばれる神経発達症で、注意を維持すること、行動を制御すること、整理することなどに難しさが生じる場合がある。米国CDCは成人で見られる困りごととして、長い課題の完了、物事の整理、集中の維持、落ち着かなさなどを挙げる。一人ひとり現れ方は異なり、同じ人でも生活の負担によって困難さが変わり得る。

ビル:「アイデアが次々出るから、起業に向いているはず」

ボブ:「アイデアが多いことと、契約や支払いを守れることは別だ」

ボブ

アイデアと、約束を守ることは別

エビー:「得意な部分があっても、苦手な工程は仕組みで補えるかもしれない」

ADHDの人は全員起業に向いている、あるいは起業すべきではない、という結論をCDCの案内から導くことはできない。事業には、顧客への提案だけでなく、約束を守り、資金を確認し、仕事を継続する活動がある。

特性と起業の相性は別問題

締切を忘れる会社をつくらない

ビルは顧客との約束を書いた付箋を三枚失くした。

ビル:「思いつきは止まらないのに、締切がどこかへ消える」

ボブ:「記憶だけに任せているのか」

エビー:「一つの予定表に期限と担当者をまとめたら?」

ビル:「予定表が増えると楽しくなるから五種類作った」

ボブ:「だから予定が散らばるんだ」

CDCは成人のADHDについて、仕事の整理や長い課題の完了に難しさが生じ得ると説明している。具体的な対処は個人に合わせて検討する必要があるが、事業運営上は重要な約束を個人の記憶だけに依存させない工夫ができる。

三人は顧客の締切を一つの管理表に集め、社内で確認する人を決めた。ビルは日付だけではなく「誰に何を渡すか」を書くことにした。

衝動的な購入を『投資』と呼ばない

新しい企画を思いついたビルは、必要性が確かめられていないソフトを購入しようとした。

エビー:「買う前にどんな業務で使うかを聞きたい」

ビル:「アイデアは鮮度が命だから、すぐ買わなければ」

ボブ:「契約期間、解約条件、予算を確認するのが先だ」

CDCが挙げる成人のADHDの困りごとには、行動の制御や整理に関するものもある。ただし、ビルの買い物癖をこの場面だけからADHDと診断できない。何らかの特性の有無にかかわらず、事業の支出には承認の仕組みが役立つ。

衝動買いを『投資』と呼ばない

ビル:「一定額以上は一晩置いてから買う?」

エビー:「緊急の業務には例外の確認も必要だから、金額と責任者を決めたいわ」

ボブ:「『社長の興奮』を支払理由に書かないようにね」

博士は才能のラベルを貼らなかった

博士:「ADHDかどうかは自己判断だけで決めるものではない。そして特性がある人の能力や向いている職業を、一律に決めるべきではないよ」

ビル:「起業家として向いている証明が欲しかったんです」

博士:「得意な発想を仕事に生かすなら、実行する工程も必要だ。思いついた案を保存する場所、検証する時期、支払承認、顧客への納品。この流れを仕事として整えていこう」

ボブ:「苦手な作業を一人で抱えず、役割を分けることもできますね」

博士:「そうだ。CDCも成人のADHDでは仕事での工夫や配慮が役立つ場合があると説明している。支援の必要性は本人の状況に応じて考えよう」

エビー:「『できない自分を責める』より、どこで作業が止まるかを見る」

博士:「そのとおり。強い困りごとが続く場合は専門的な相談も検討できる。米国NIMHは日常機能への影響が続く場合の支援について案内している。この記事で診断を行うものではないよ」

アイデアを実行に渡す

ビルは新商品の案を紙に書いたあと、「誰が調査する」「いつ判断する」「契約条件は」と欄を作った。

ボブ:「今度はアイデアを仕事へ変える順番が見える」

エビー:「ビルの発想を無理に減らす必要もないわ」

ビル:「僕はアイデアを愛している。だからこそ、社内で迷子にさせない」

博士:「よい言葉だね。自分の特性を誇張するより、仕事の設計を整えることだ」

シルクワーク博士

特性の名前ではなく、仕事の設計を

得意を任せ、苦手を責めない配置

ビルは自分の発想を生かせる仕事と、継続的な確認が要る仕事を白板の左右に分けた。顧客の課題を見つけて提案を考えるのは楽しい。一方、請求書の管理や細かな契約期限の確認には負担を感じやすい。

ボブ:「でも社長の責任があるから、苦手な仕事は消せないね」

ビル:「じゃあ苦手を克服するまで全部一人でやるしかない?」

エビー:「役割と確認の仕組みを整えればいいのよ。誰かを苦手な部分の尻拭い係にしないようにね」

博士:「担当者を決めたら、業務に必要な情報を共有し、確認する時期と連絡先を決めなさい。個人の特性にかかわらず、会社は誰か一人の記憶力だけに頼ってはいけない」

ビル:「アイデアの勢いを守るために、実務の確実さが必要だったのか」

ボブ:「そう。得意なところを伸ばすのと、支払いを遅れずに行うことは、どちらも大切だ」

新しい仕組みは、診断名を名札に書くことではない。困りごとを業務単位で把握し、必要な配慮を適切に相談しながら設計することだ。特性を誇張して起業成功の理由にするより、現実の仕事を続けられる方法を考えたい。

最後の適性テスト

翌朝、ビルが新しいカードを掲げた。

ビル:「僕はついに最高の起業家適性テストを作った!」

ボブ:「何を測るんだ?」

ビル:「『このテストを衝動買いしないでいられるか』」

エビー:「それなら自分に受けさせてみて」

ビル:「作成費を払ったから、もう失格だ」

博士:「次は作る前に必要性を確認しよう」

ボブ:「反省が事業化されるのも考えものだな」

関連する通常記事「ビル、起業家適性テストを八種類買う」 https://kyou-ichinichi.com/adhd-and-startups/ と合わせて考えると、起業家らしい性格を証明することより、約束と支払いを守れる運営を作ることが大切だと分かる。得意な仕事へ力を使い、困りごとのある工程には仕組みを置く。それが現実的な事業の土台になる。

出典

米国CDC「ADHD in Adults」

米国CDC「Data on ADHD in Adults」

米国NIMH「My Mental Health: Do I Need Help?」

合わせて読みたい

読んで終わりじゃ、もったいない。この記事のテーマを、あなたの次の一歩へ

  • このテーマを仕事の現場で活かすなら、コミッターズ(COMITTERS)へ。集客・営業の実務コラムと、無料相談の入口があります
  • 心の整え方を、本でもっと深く。楽天ブックスで、このテーマの関連書籍が探せます
  • 一人で抱え込まず専門家に相談したいときは、お問い合わせからご連絡ください。次の一歩を、一緒に整理できます

PRがあります

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です