経営者同士のピアサポートという選択肢

同じ立場の相手にしか、話せないことがある

経営者の悩みには、専門家にも家族にも話しにくい種類のものがあります。資金繰りの綱渡り、幹部との確執、事業を畳むかどうかの迷い。利害関係のある相手には言えず、家族には心配をかけたくない。結果として、最も重い判断ほど、誰にも話さないまま一人で抱えることになります。

その受け皿として、近年注目されているのが、同じ立場の者同士が支え合う「ピアサポート」という考え方です。専門家による支援とは違う価値と、違う注意点を持つ仕組みです。

この記事の要点

ピアサポートとは、同じ立場や経験を持つ者同士が、対等な関係で話を聞き合い、支え合う仕組みです。経営者同士のピアサポートは、利害関係のない同業者に本音を話せる点に価値があります。一方で、守秘の約束、助言と傾聴の線引き、医療や専門支援の代替にはならないこと、という3つの注意点を先に決めておかなければ、場は長続きしません。

ピアサポートは、カウンセリングの代わりではない

まず、位置づけをはっきりさせます。ピアサポートは、専門家によるカウンセリングや医療の代替ではありません。同じ経験を持つ者同士だからこそ分かり合える部分と、専門家でなければ扱えない部分は、別のものです。

ピアサポートの強みは、「説明の前提が要らない」ことです。経営者の孤独や、決断の重さについて、背景から説明しなくても伝わる。その速さと安心感が、専門相談とは別の価値を生みます。逆に、心身の不調そのものを扱う場ではありません。眠れない状態が続くといった話が出てきたら、場の中で抱え込まず、医療機関や専門の相談窓口へつなぐのが、仲間としての正しい関わり方です(医師へ相談して)。

なぜ経営者同士でなければ届かないのか

「経営者の孤独は性格の問題ではない。相談相手の設計の話」の記事でも紹介しましたが、経営者の孤独は、相談相手の不在というより、相談相手の設計の失敗として捉える方が実態に合っています。社内には利害があり、取引先には弱みを見せられず、家族には別の負担がかかる。この構造の中で、同業者という立場は、数少ない「利害の外側」にあります。

経営者の孤独は性格の問題ではないの記事でも紹介しましたが、孤独の背景を理解することが、ピアサポートの場の設計にもつながります。

経営者会や勉強会のような場が、情報交換以上の価値を持つことがあるのは、このためです。ただし、名刺交換と近況報告で終わる場では、本音の相談は生まれません。ピアサポートとして機能させるには、意図的な設計が必要です。

場を機能させるための、3つの約束

1. 守秘を、最初に言語化する

「ここで聞いた話は外に出さない」という約束を、曖昧な空気ではなく言葉で確認します。誰が参加し、どこまでの話をしてよいのか。この約束が曖昧な場では、参加者は安全な話題しか持ち込まなくなり、場の意味が薄れます。

2. 助言は、求められてから

ピアサポートの基本は、まず聞くことです。相手が求めていない段階で解決策を次々に出すと、場は助言の競い合いになり、話し手は置いていかれます。「助言がほしいか、聞いてほしいだけか」を最初に確認する作法を入れるだけで、場の質は大きく変わります。

3. 愚痴で終わらせない、振り返りを置く

不満を言い合うだけの場は、参加後に疲れが残ります。最後に「今日の話で、次に試すことは何か」を一人ずつ短く言葉にするなど、小さな振り返りの型を置くと、場は前向きな仕組みとして続きます。

始め方と、続けるための工夫

新しく場を作る必要はありません。既存の経営者同士の集まりの中で、少人数の定例の話し合いの時間を持つ形でも始められます。大切なのは、人数を欲張らないことと、頻度を固定することです。多人数では本音は出にくく、不定期では習慣になりません。

オンラインの場も有効ですが、守秘の観点から、参加者を固定し、録画や記録の扱いを先に決めておく必要があります。また、参加者同士に取引関係が生まれると、立場は対等でなくなります。利害が絡み始めたら、その関係はピアサポートの場から外す判断も必要です。

なお、特定の投資話や事業の勧誘の場に変質してしまうと、サポートの場としては終わります。場の目的を守ることも、参加者全員の責任です。

「メンターは必要なのか?経営者が『相談できる相手』を持つ意味と、持たない場合の代替」の記事でも紹介しましたが、相談相手は一人に集約する必要はありません。専門家、公的窓口、そして同じ立場の仲間。それぞれ役割の違う相談先を複数持つことが、経営者の支えとしては最も安定した形です。

ピアサポートが向かない場面も、知っておく

万能な仕組みではありません。参加者同士の力関係が強い場、例えば大きな取引先と下請けのような関係が混ざる場では、本音は出にくくなります。また、危機的な状態にある人の話を、仲間の場だけで受け止め続けることも適切ではありません。場が重くなりすぎるときは、専門の相談先につなぐ判断を、参加者の誰かが担う必要があります。

さらに、助言の質にも限界があります。同業者の経験談は具体的で役立つ反面、その会社の条件に合っていた方法が、自社にも合うとは限りません。経験は参考にし、最終判断は自社の数字と条件に戻す。この線引きを忘れると、ピアサポートは心強い場から、判断を曇らせる場へ変わります。強みと限界の両方を知った上で使うことが、この仕組みを長持ちさせる条件です。

経営者のためのメンタルヘルスの基礎知識の記事でも紹介しましたが、土台の知識とあわせて読むことで、ピアサポートの位置づけも見えやすくなります。

合わせて読みたい

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まとめ

経営者の重い判断を一人で抱える構造は、強い経営の証拠ではありません。同じ立場の者同士で支え合うピアサポートは、専門家とは違う速さで本音に届く、現実的な選択肢です。守秘と作法を先に決め、専門支援と役割を分けたとき、その場は長く機能します。孤独を抱えたまま判断し続ける経営より、話せる相手を持つ経営の方が、結果として会社を守ります。

相談について

「今日一日」では、経営者の相談相手の持ち方や、孤独との向き合い方についての相談をメールでも受け付けています(soudan@kyou-ichinichi.com)。医療的な判断を行う場ではありませんが、状況の整理や次の一手を一緒に考えることはできます。

出典・参考

  • 厚生労働省:精神保健福祉領域におけるピアサポートに関する公開情報(当事者同士の支え合いの考え方)
  • 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」:相談窓口の案内

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