子どもの英語ドリルを決算書みたいに管理した社長

薄いドリルが赤字に見える

舞台は古いアメリカ映画に出てきそうな、朝日が差すダイナー。ビルは分厚い帳簿を開き、赤い鉛筆で線を引いていた。

ビル:「見てくれ。子どもの英語学習の月次決算だ。ドリルの消化率、正答数、未実施ページ。完璧な管理体制だろう?」

ボブ:「子どもの学習を在庫管理するな」

エビー:「その表に『今日は絵本が楽しかった』って書く欄はある?」

ビル:「それは非財務情報だから、決算後に検討する」

ボブ:「君の決算後には、子どもが本を閉じていそうだな」

元証券マンのビルは数字が並ぶと安心する。週末にドリルを何冊終えたかを数え、前回のテストより点が下がれば「緊急対策会議」と書いた封筒を出す。ここまで登場した子どものセリフはない。ビルが考えた教育計画には、肝心の本人の気持ちが入り込む場所がなかった。

エビー:「何を学びたいか、本人に聞いた?」

ビル:「何が必要かは大人が判断するものだろう」

ボブ:「必要な環境を整えるのは大人の役割だ。でも、進め方を何もかも指定するのとは違う」

ビル:「英語は将来のためになるんだ。だから今、たくさんやらせたい」

エビー:「将来が心配なのはビル自身かもしれないわね」

一点下がって非常ベル

ビルはポケットから小さなベルを取り出した。

ビル:「昨日より点が下がったら鳴らす。原因分析の開始を知らせるんだ」

ボブ:「子どもにとっては、間違えるたび警報が鳴る家になるぞ」

エビー:「『この絵、面白い』って話している時にも鳴らすつもり?」

ビル:「正解に至るまで指導する」

ボブ:「質問されたときに説明することと、答える前に割り込むことは違うよ」

幼児期の教育に関する公的な基準は、子どもが自分から環境に関わり、試したり考えたりする活動を大切にしている。だからといって、大人が何も手助けしなくてよいという話ではない。大人は環境を整え、関心に応じて関わる。これは「教えれば教えるほど必ず悪くなる」という科学的な断定とは別の、教育の考え方である。

ドリルの冊数では測れないもの

ビル:「では、ベルを鳴らすのは正解したときだけにしよう」

エビー:「正解をもらうためだけの学習になるかもしれないわ」

ボブ:「褒めることも大切だけど、何を面白がっているのか聞く方が役立つ場面もある」

本人に選ばせない選択式

三人は、ビルが作った「好きな英語の勉強を選んでね」という用紙を見た。選択肢は「ドリル十ページ」「ドリル二十ページ」「ドリル三十ページ」だった。

エビー:「これ、全部同じじゃない」

ビル:「選択肢は三つあるよ」

ボブ:「数が違うだけで、やることは決まっている」

エビー:「一緒に本を読むとか、絵を見て話すとか、今日は休むという考えもあるのに」

ビル:「休んだら進捗がゼロになってしまう」

ボブ:「進捗表がゼロでも、親子の時間までゼロになるわけじゃない」

子どもの読書活動を推進する国の計画は、家庭での読書習慣を促すこととともに、子どもの視点や主体的な関わりを大切にしている。ここから直接「特定の英語教材を使えば成績が上がる」とは言えないが、本との出会いを大人が一方的に評価するだけではなく、家庭の中で共有する発想の参考になる。

ビル:「つまりドリルの冊数は、学習した気分を測る僕の数字だったのか」

エビー:「数字が必要な場面もあるけれど、本人が面白いと思ったかどうかまで数字だけで決めないことね」

博士は帳簿を閉じた

シルクワーク博士がダイナーにやって来た。ビルの帳簿を見て笑うのではなく、空白の多い欄に目をとめた。

博士:「ビル君。これだけ詳しい表を作ったのに、子どもがどんなページに目を輝かせたかは分からないのだね」

ビル:「計測項目を増やしますか?」

博士:「先に帳簿を閉じて、一緒に本を開いてみたらどうかな。『何が見える?』『どの場面が好き?』と話す。答えを急いで与えず、子どもから出てくる言葉を待つのだよ」

ビル

決算書、閉じました

ボブ:「教え込みを減らすといっても、子どもが助けを求めたら放っておくわけではありませんね」

博士:「もちろんだ。『教えない』は無関心という意味ではない。声をかけ、隣で読み、必要なときには支える。大人が主役の成績発表会から、子どもが関わる読書の時間へ移すことを考えよう」

シルクワーク博士

主役は子どもです

博士はもう一つ、子どもの意見を年齢や発達の程度に応じて尊重するという公的な理念に触れた。子どもが本を選びたいと言ったら、その声を聞くこと。大人の期待と異なる答えでも、直ちに怠けていると決めつけないこと。これは英語力の伸びを保証する理屈ではなく、人との関わり方を考える土台である。

ビル:「でも親は心配なんです。英語で困らないようにしてあげたい」

博士:「心配を持つのは自然だよ。ただ、親の不安が毎日の小テストの形で子どもに届いていないか、ときには点検したいね」

エビー:「『まだできないこと』を数える時間を、『一緒に気づいたこと』を話す時間に変えるわけね」

ボブ:「ビルは管理の達人だから、最初は一緒に座るだけでも練習が要りそうだ」

ビル:「本を開くのに決算承認は必要ないのか……」

教えない英語「ペアリド」という選択肢

英語学習への関わり方を見直したい家庭には、「ペアリド(教えない英語®)」という選択肢がある。一般社団法人ペアリド 英語ペアリーディング協会が展開するメソッドで、親や教師が一方的に答えを教え込むのではなく、声かけと一緒に読む「ペアリーディング」を軸にしている。子どもが自ら学ぼうとする力や自己肯定感を大切にする考え方だ。

入口は年齢によって異なる。0〜6歳の親子には「スーパー国際人クラブ」、小学生から高校生には一対一のオンラインレッスン「コミオ・スーパー国際人スクール」が用意されている。目指す「スーパー国際人」は、英語力だけでなく、コミュニケーション力、専門性、日本人としてのアイデンティティを合わせ持つ人という考え方だ。こうした理念は、特定の成果を必ず得られるという保証ではない。

教えない英語ペアリドという選択肢

最初の案内は無料電子書籍。紹介ページ:

https://www.reiwa-sogoshosha.com/service/pairead/

ビル:「ドリルの冊数ではなく、子どもの気持ちも聞く。僕の家の決算書を一枚減らすよ」

博士:「よいね。大人が見守りながら一緒に読む時間を作れるなら、それは始まりになる」

エビー:「親も試行錯誤していいのよ」

ボブ:「完璧な学習管理者である必要はないからね」

最後の一ページ

翌朝、ビルは絵本を開いて楽しそうに座っていた。

エビー:「今日はベルがないのね」

ビル:「もう鳴らさない。代わりに親子読書の損益計算書を作った!」

ボブ:「また帳簿に戻ったのか!」

ビル:「利益は『一緒に笑えた回数』。損失は『僕が先に答えを言った回数』」

エビー

締切のないページ!

博士:「その表を完成させるより、本の続きを楽しもうか」

エビー:「そうそう。今日くらい締切のないページをめくりましょう」

子どもの学びを支えたいとき、管理表で安心するのは大人かもしれない。進捗を確認することと、学ぶ本人の気持ちを尊重することは両立できる。大人が少し口を閉じて一緒に本を開く。その時間から、関わり方を変える余地が見えてくる。

出典

文部科学省「幼稚園教育要領」

文部科学省「第五次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」

こども家庭庁「こども基本法に基づくこどもの意見の反映について」

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