眠れない夜が続く経営者へ。睡眠と意思決定の関係

眠れない夜は、翌日の「判断の質」で請求される

資金繰りのこと、人のこと、止まらない案件のこと。経営者の夜は、考えごとで埋まりやすいものです。眠れないこと自体は、忙しい経営者なら誰にでもある。しかし問題は、その請求が翌日の意思決定の場に届くことです。睡眠不足の代償は眠気だけではありません。判断の精度そのものが、日々静かに削られていきます。

この記事の要点

睡眠は、意思決定の質を決める土台です。睡眠不足の影響は「眠い」という自覚よりも先に、判断の偏り、感情の起伏の大きさ、衝動の抑えにくさとして現れ、本人が気づかないまま経営判断に混入します。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人では6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することを示し、あわせて寝酒や夕方以降のカフェインが睡眠の質を下げることも指摘しています。経営判断の精度を上げたいなら、最初に見直すべきは情報量ではなく睡眠です。

睡眠不足のとき、判断はどう変わるか

睡眠が足りない状態で起きる変化には、一定の傾向が知られています。

まず、リスクの見方がぶれます。普段なら慎重になる場面で楽観的になったり、逆に些細な不安に引きずられて決断が遅れたりする。次に、感情の振れ幅が大きくなります。小さな報告ミスに過剰に苛立つのは、器の問題ではなく、睡眠不足で感情の調整が効かなくなっている状態の現れ方です。そして、新しい情報を取り込む力が落ちます。前例のある判断はこなせても、前提の違う判断——経営者にこそ求められる種類の判断——が鈍るのです。

厄介なのは、睡眠不足の本人ほど、自分の低下に気づきにくいことです。「自分は短時間睡眠でも平気だ」という自覚は、点検の対象として扱うべきものだと筆者は考えます。

数字で押さえる、睡眠の最低ライン

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適正な睡眠時間には個人差があるとしたうえで、成人では6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。また、時間の長さだけでなく、朝目覚めたときに休まったと感じる「睡眠休養感」を高めることも重視されています。

つまり点検すべきは2つです。「6時間のラインを割っていないか」と、「起きたときに休まった感覚があるか」。この2点は、経営者が自分のコンディションを測る、最も安くて正確な指標です。第1弾の記事「『疲れた』と感じたとき、最初に見るべきは睡眠か、仕事量か、人のことか」でも紹介しましたが、疲れの原因を探るとき、最初に見るべきは仕事の量より睡眠です。

眠れない夜の「考えごと」を、頭の外へ出す

経営者が眠れない理由の多くは、体ではなく「考えごとの置き場所」にあります。頭の中で回り続ける案件は、寝床でも回り続けます。対策はシンプルで、寝る前に、頭の中の案件を紙やメモに書き出すことです。明日やること、心配なこと、保留中の判断。書き出した時点で、脳は「保持し続けなくてよい」と判断しやすくなります。

加えて、夜に結論を出さないルールも効きます。大きな判断ほど、眠れない夜にはしない。夜中に送るメールほど、翌朝後悔する確率が高い。判断を「朝の自分」に正式に引き継ぐことは、逃避ではなく、意思決定の品質管理です。

質を下げる2つの習慣:寝酒とカフェイン

同じ睡眠ガイド2023は、嗜好品との付き合い方にも触れています。晩酌での深酒や、眠るための酒(寝酒)は、睡眠の質を悪化させる可能性があること。カフェインは、1日の摂取量が400mg(コーヒー700cc程度)を超えると夜に響く可能性があること。夕方以降の摂取は夜間の睡眠に影響しやすいこと。眠れないから酒を飲む、眠気を覚ますために夕方もコーヒーを飲む。この循環は、睡眠の問題を解くどころか、静かに深くします。酒と経営の関係については、本特集の記事「飲酒と経営の関係。判断力と睡眠から見る、経営者の酒との付き合い方」でも紹介していますが、睡眠の観点だけでも、寝酒は真っ先に見直すべき習慣です。

会食と出張が多い経営者のための、現実的な整え方

理想の生活リズムを語っても、経営者の夜は会食と出張で埋まります。だから設計は、現実の予定を前提に組みます。土台にするのは就寝時刻ではなく、起床時刻です。寝る時間が日によって動いても、起きる時刻をそろえる方が、体内時計は安定します。出張先では、朝に光を浴びることと、朝食を取ることが、その日の夜の眠りの準備になります。

仮眠も、使い方次第で味方になります。日中の眠気が強いときは、午後の早い時間に短く取る。長く深く眠るためのものではなく、午後の判断力を立て直すための道具として割り切るのが要点です。逆に、夕方以降の長い仮眠は、その夜の眠りを浅くする方向に働きます。「眠れない夜」を減らす工夫は、夜だけではなく、朝と昼の設計で決まる部分が大きいのです。

それでも眠れない夜が続くなら

生活の工夫を尽くしても眠れない状態が続く場合、背景に体の病気や心の不調が隠れていることがあります。睡眠の悩みが生活の妨げになるほど続くときは、我慢の対象ではなく点検の対象です(気になる場合は医師へ相談して)。睡眠外来やかかりつけ医は、そのための窓口です。

出典

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」:成人では6時間以上を目安とすること、睡眠休養感の重要性、寝酒が睡眠の質を悪化させる可能性、カフェインの摂取量(1日400mg超)と夕方以降の摂取が睡眠に影響すること

まとめ

経営の判断は、経営者の頭という1つの装置の上で行われます。睡眠は、その装置の整備時間です。眠れない夜が続く経営者に必要なのは、気合の入れ直しではありません。睡眠を経営の点検項目に格上げすることです。判断の質にこだわる経営者ほど、夜の過ごし方にこだわってください。会社の一番大事な意思決定は、よく眠った頭からしか生まれません。

睡眠や心の困りごとについて整理したいときは、「今日一日」の相談窓口でも受け付けています。相談は soudan@kyou-ichinichi.com 宛のメールでもお送りいただけます。

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