感情労働|笑顔と平静を作り続ける経営者の、見えないコスト
ビジネスで言うと
感情労働とは、仕事のために感情を作り、整え続ける負担を指す言葉である。本来は接客業で使われる概念だが、経営者ほど重い感情労働をしている職種は少ない。資金繰りが厳しくても平静を装う、内心怒っていても穏やかに指導する、将来に不安があっても社員の前では自信を見せる。「経営者の顔」を維持するための感情の演出は、毎日、長時間続く本業の一部である。
この労働の厄介さは、成果として数えられないことだ。誰も「今日も平静でいてくれてありがとう」とは言わない。本人も「仕事のうちだ」と片づける。だが、感情を作り続ける負担は確実に蓄積し、夕方の疲労感、人への苛立ち、家庭での無言といった形で、清算を求めてくる。
原因
感情労働の負荷を決めるのは、感情の「落差」の大きさである。本音と表の顔が近い日は軽い。不安、怒り、失望といった強い本音を押し込めて、平静や笑顔を作る日ほど重い。経営の難局が続く時期は、この落差が毎日発生する。
もう一つの要因は、感情を降ろせる場所のなさである。社員には愚痴れない、取引先には弱みを見せられない、家族には心配をかけたくない。感情労働の担い手は、たいてい同時に「感情を処理する場所を持たない人」でもある。作り続ける感情と、処理できない感情。その在庫が心の負担になっていく。負担が限界を超え、気分や体調に影響が続く場合は、一人で処理しようとしないことだ(医師へ相談して)。
対策
感情労働は、ゼロにはできない。だからこそ、負荷の管理が要る。
- 「本音を出してよい場」を意図的に確保する。経営者同士の会、相談先、昔の仲間。本音を置ける場所が一か所あるだけで、蓄積の進み方は変わる
- 一日の終わりに、感情の在庫を書き出す。「今日、本当は怒っていた」「本当は不安だった」。書くことで、在庫は処理済みに近づく
- 落差の大きい日(難しい解雇面談、大口の交渉、資金繰りの山場)を、週に何度も重ねない。日程の組み方で負荷は調整できる
- 家庭では「経営者の顔」を降ろす。無言になる前に、「今日は疲れている」と言葉で伝えるほうが、家族の摩擦は減る
感情を作り続ける力は、経営者の実力のうちだ。だが、その労働に賃金を払うのは自分しかいない。休ませるのも、労わるのも、自分の仕事である。
今日一日では、経営者と働く人のこころのテーマを、仕組みと心理で読み解いています。個別の相談は soudan@kyou-ichinichi.com まで。毎日の読みものはメールマガジンでお届けしています(登録は今日一日のサイトから)。

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