相談することへの抵抗感をほどく

抵抗感は、弱さではなく、身についた習慣の側にある

経営者ほど、相談することへの抵抗が強い傾向があります。「自分の問題は自分で解くものだ」「人に弱みを見せるわけにはいかない」「相談したところで答えは変わらない」。こうした考えは、会社を立ち上げ、困難を自分の判断で切り抜けてきた経験から生まれたものです。間違った考えではありません。ただ、その習慣が、今の局面でも同じように役立つとは限りません。

抵抗感は、性格の問題として片付けるより、どこから来ているのかを分解した方がほどけやすくなります。

この記事の要点

相談への抵抗感は、主に「弱さと見なされる不安」「相手に迷惑をかける感覚」「相談しても変わらないという先入観」「何を話せばよいか分からない戸惑い」の4つから生じます。抵抗感を意志で消す必要はなく、相談を「心のケア」ではなく「情報と視点の調達」と捉え直し、短時間・具体的なテーマから始めることで、入口の負担は大きく下がります。

抵抗感の正体を4つに分ける

第一に、「弱いと思われるのではないか」という不安です。経営者は、社員や取引先の前では判断する側でいることが求められます。その役割意識が強いほど、相談は役割の放棄のように感じられます。しかし実際には、外部の視点を取り入れることは、判断の放棄ではなく判断材料の追加です。

第二に、「相手の時間を奪うのではないか」という遠慮です。特に、対価を払わない相談ほど、この感覚は強くなります。これは、相談先として有料の専門家や、相談を受けることを役割とする公的窓口を選ぶことで、構造的に解消できます。

第三に、「話しても変わらない」という先入観です。過去に、相談しても助言だけで終わった、話を聞いてもらえなかった、といった経験があると、この感覚は強まります。相談先の種類によって役割は違うため、合う相手に出会えていないだけのことも少なくありません。

第四に、「何から話せばよいか分からない」という戸惑いです。困りごとが漠然としている段階では、うまく説明できないこと自体が負担になります。けれど、整理できていない状態から話し始めてよいのが、専門の相談の場です。原稿を持つ必要はありません。

「相談=弱さ」という図式は、経営の現場では成り立たない

経営者は普段、税理士に税務を、弁護士に法務を、社会保険労務士に労務を相談しています。専門外の領域を専門家に委ねることは、経営では当然の作法です。心の状態や働き方の相談だけを、この作法の例外に置く理由はありません。

「メンターは必要なのか?経営者が『相談できる相手』を持つ意味と、持たない場合の代替」の記事でも紹介しましたが、相談相手を持つかどうかは、精神論ではなく設計の問題です。相談先を持たない状態は、強い状態ではなく、単に選択肢が1つ欠けている状態です。

入口の負担を下げる、3つの始め方

抵抗感が強いうちは、大きな決意を持って臨む必要はありません。始め方を小さく設計します。

  • テーマを1つに絞る:「全部の悩み」ではなく、「最近、決断に時間がかかること」など、具体的な1件から始める
  • 時間を短く区切る:初回は相談時間の枠を確認し、その範囲で試す。合わなければ変えればよい、という前提を持つ
  • 文章から始める:対面で話す負担が大きい場合は、メール相談や、公的窓口の電話相談など、形式の軽いものから入る

「カウンセリングは『弱い人が行く場所』ではない。仕組みから説明する」の記事でも紹介しましたが、カウンセリングは特別な人のための特別な場所ではなく、困りごとを言葉にして整理するための、仕組みのある対話です。その仕組みを知るだけでも、入口の見え方は変わります。

それでも抵抗が残るときに考えること

始め方を工夫しても抵抗が強い場合は、その抵抗自体が情報です。例えば、「誰にも知られたくない」という感覚が中心なら、守秘の仕組みが明確な相談先を選ぶことが先決です。「時間を取ること自体が難しい」なら、問題は相談への抵抗ではなく、働き方の余白のなさの方かもしれません。

また、眠れない日が続く、食欲が落ちている、意欲の低下が長引いているといった状態がある場合は、抵抗感をほどく作業より先に、体の側からの確認が必要です(医師へ相談して)。順番を間違えないことが、結果として一番の近道になります。

抵抗感を、無理に消そうとしない

ここで誤解してほしくないのは、抵抗感をゼロにしなければならない、という話ではないことです。抵抗を感じながらでも、短い相談から試すことはできます。むしろ、抵抗感は自分の価値観の在りかを示す手がかりでもあります。「弱みを見せたくない」という感覚の裏には、社員や家族を守りたいという責任感がある場合も多いものです。

大切なのは、その責任感と、相談しないことで生じるリスクを並べて見ることです。判断する人が一人で抱え込み、視点が固定されたまま大きな決断を続ける状態は、守るべき相手にとっても安全とは言えません。相談は、自分のためだけの行為ではなく、判断の質を守るための行為でもあります。この捉え直しができたとき、抵抗感は「恥ずかしさ」から「設計の問題」へと姿を変え、扱える対象になります。

まとめ

相談への抵抗感は、意志の弱さの証明ではありません。長く判断する側に立ち続けた経営者が、身につけてきた習慣の裏側です。習慣は、考え方を変えるだけではほどけません。相談先の選び方と始め方を設計し直すことで、ほどけていきます。相談できる経営者は、弱いのではなく、判断材料の調達先が多い経営者です。その差は、苦しい局面でこそ表れます。

相談について

「今日一日」では、相談先の選び方や、相談を始める前の迷いについての相談をメールでも受け付けています(soudan@kyou-ichinichi.com)。医療的な判断を行う場ではありませんが、状況の整理や次の一手を一緒に考えることはできます。

出典・参考

  • 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」:相談窓口の案内
  • 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」等の公的相談窓口に関する公開情報

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